コラム

冷戦時代に引き裂かれたピアニストと歌手の究極のラブストーリー

映画『COLD WAR あの歌、2つの心』

第91回アカデミー賞3部門(監督賞、撮影賞、外国語映画賞)にノミネートされ、第71回カンヌ国際映画祭で見事監督賞を受賞した事で話題の情熱的なラブストーリー。

歌手を夢見るズーラ(ヨアンナ・クリーク)とピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)。
冷戦下のポーランドでの出会いから始まり、ワルシャワで恋に落ち、東ベルリンで別れパリで再会。そしてユーゴスラビア、再びパリ、ポーランドと舞台の移り変わりと共に時代に流されながら別れと再会を繰り返す二人はすれ違いを経てようやく一緒に暮らすようになるが、その先には思いがけない運命が二人を待ち受けていた…。

この映画は全編モノクロ。
晴れているのか曇り空なのか分からないグレーの空の色や草木が風になびいてサラサラと揺れる音…カラーでは伝わらないモノクロならではの美しい世界観が二人の心情をより一層引き立て、劇中に流れる曲「2つの心」は物語が進むにつれ色々なバージョンに姿を変え心に染み入る忘れられない名曲になっていく…。

物語の主役ズーラとヴィクトルについてパヴェウ・パヴリコフスキ監督は「この二人は激しい関係を結んでいた私の両親を基にしている。」と、鉄のカーテンの両側で離れたり、くっついたり、互いを追いかけたりしながら亡くなるまでの40年間を過ごした両親を振り返る。

そんな中で監督は、共通点はあるけれど決して両親の物語にはせず、一つの心揺さぶる刺激的なラブストーリーにしたとはいえども「両親に捧げる」という文字で幕を閉じるこの映画の中には、ドラマティックな関係を築いた父と母への思いを感じとることの出来る監督の両親への愛の物語だとも感じた。

少女だったズーラがヴィクトルと愛し合う年月を重ねる毎に美しい大人の女性へと変わっていく様に、たとえ困難な恋愛でも人を想う気持ちの美しさや大切さがモノクロ美と伝わり、見ている私達に魅力を与えてくれる。

互いに愛し合いながらも引き裂かれてしまう二人に幸せは訪れるのだろうか…と最後まで二人の幸せを願わずにはいられない物語にしばらくは時間を忘れて酔いしれていたい。


『COLD WAR あの歌、2つの心』
6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

配給:キノフィルムズ
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ 
撮影:ウカシュ・ジャル
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他

2018年/原題:ZIMNA WOJNA /ポーランド・イギリス・フランス/ ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 / モノクロ /スタンダード/5.1ch/88分/ DCP/ G / 日本語字幕:吉川美奈子 配給:キノフィルムズ 後援:ポーランド広報文化センター

辻 美香

シネマナビゲーター
1972年8月15日生。
長崎を中心に映画コメンテイター、映画ライターとしてラジオ、テレビ、講座講師等で活動。
ラジオパーソナリティーエフエム諫早『美香のFlower Cinema』(毎週金19:30~)

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